風に舞う長い髪を、指先で絡めとって手繰り寄せる。

緩やかに張った栗色の先には、安らかな寝息を立てる少女が
胸の前で両手を組んだ姿勢で横たわっていた。


ふっくらとした頬も、ぷっくりとした唇もちょっとまるっこい鼻先も、
全部が全部可愛らしくて愛しい。


まったく、なんだってこんなになっちまったんだか。

彼女の身につけているものと言えば、大きさのあわないシャツとバンダナだけという、
非常に無防備そのものの格好であり、
シャツの裾から伸びるすらりとした
健康的な足のラインがこれまた目を惹くというか。


起きている時は幼さと凶暴さばかりが全面に出ているが、眠っている今は
健やかな色香がほのかに漂っているというか将来に期待してしまうというか。

ああ、悪いか。
悲しい男の性ってヤツだ。


こいつの普段の姿を知っていたらしょうがないってもんだろ?

ちょっとしたアクシデントから幼い姿になっちまってるが、
元の姿の時は公私共にパートナーと認め合う関係だったんだから。

つまり、前述のような格好だとて、今の彼女にとってはワンピースを
着ているような状態に過ぎず、更に幼い外見に変化している彼女に対してあれこれと
疚しい思いを抱くってのは、本来なんか間違っている気がするような、しないような。

まぁ、オレとリナ、二人が揃って納得してりゃ誰に何を言われようが
気にすることでもないよな。


すーすーと小さな寝息は時折途切れ、むにゃむにゃむずかるように動いては
オレの方に寄り添ってくる小さな恋人の手を握り「ここにいる」と囁いて。

ああ、こんな小さな頃からお前さんと知り合っていたなら。
なんぞと、ありもしない過去を捏造しては一人クスクスと笑いが込み上げてくる。



風に舞うのは一欠けらの記憶。

寂しい笑顔と悲しい泣き顔、苦渋を殺してたたずむ親父の横顔だ。

さっさとどっかに行っちまえ。
あんたらが後生大事にしがみついてたもんはもう、この世界のどこにもねーんだ。

「ばかだったよな、オレらは…さ」

小さく吐き出した言葉も、風に舞い、そして消えて。

オレの独り言に応えるみたいに、ぎゅっと。
小さくなったリナの手が、オレの手を握り返してきた。